インド面白こぼれ話

インド人がジャパニの物を欲しがる理由

インド人は、やたら人の持ち物を見せてくれ、という。「かっこいいね」「良い物やな」と褒め称え、時には売ってくれと言う。特に多いのはおっちゃんだった。

土産物屋でチャイを飲んでいると、店員の青年が君の時計を売ってくれ、と言ってきた。バンコクの雑貨屋で300円くらいで購入した、子供用のプラスチックのマンガのばったもんの時計だ。日本では恥ずかしくて絶対着けることはできない。

「悪いな、売れません」と断った。なぜなら昔、安全ピンでピアスを空けまくったのが原因で、金属アレルギーを発症し、普通の時計ができないからだ。ピアスも医療用ステンレスのみ、シルバーでも、質の悪いものではかぶれてしまう。普段は時計はしないが、旅では必要な物だ。

彼は引き下がらない。「僕はそれが欲しいんだよ。いくらで買ったんですか?」「約3ドル」「じゃあ、3ドル出すから、それで別の時計を買えばいいじゃないですか?売ってくれよ!」

「この時計は今必要な物なんですよ、売れんな」「僕はそれが気に入ったんだよ!」

彼があまりにもしつこいので、「日本には”100円ショップ”というのがあって、1ドルでこれよりかっこいい時計いっぱいある、日本行って買えばいいやろ?!」と言った。

「僕は、ID(パスポート)を持っていないんですよ…」

その一言で、ああ、”カースト”か、と思った。金が無いから航空券が買えない、という以前に、IDを取れない、一生インドの外に出られないカーストなのだ。彼のその一言で、十分それが伝わった。悪かったと後悔した。

「ごめんな…君がID持ってないこと、知らんかったんや…」

そして彼は私が灰皿に捨てた、空の使い捨てコンタクトの容器を珍しそうに調べ始めた。「これはなんだい?」

「それは、”コンタクトレンズ”や。目、見てみ?」彼は私の目を覗き込んだ。「これが”レンズ”なのかい?」「そう、眼鏡と同じや」

「そのレンズ、売ってくれないか?」「今は無理や」「なんで?」「このレンズは1回外したら、再び入れることができない。今は外せないんや」

「いつ外すんですか?外すところが見たい」…と、今度はレンズに興味深々になった。

「今夜外す。そんなに見たいんなら、夜ホテル来い(笑)外して、君にやるから」

私たちは、海外に行けないんだ

ホテルのフロントで一服していると、地元のおじさんがやってきた。「やあ、ナマステー」

彼も例のマンガ時計を欲しがった。6ドル出す、と財布から米ドルを出す。「悪いけど…」と、今度は大人なので、しかもドルを私の手に握らせようとしたので、金属アレルギーのことを説明した。

彼は納得してくれたようだ。「私は、海外に行けないんだよ。だから、外国の物が欲しいんだよ」

”金が無いから海外に行けない”という理由と、”IDを持っていない(海外に行けるカーストでは無い)”というのでは、違いが重い。”海外に行けない”という一言で、それがなぜか、どちらの理由なのかは”カースト”といわれなくとも、その雰囲気で理解できた。

それは、諦めの表情だったからだ。それを言われると、「そうですか…」としか言えなかった。

そうやったら、外国人旅行者の物を欲しがるのは、当たり前やと思った。そして、一見自分と同じレベルの”普通の労働者”に見えた人に、「日本で買えばいいやろ?」と何気なく言った言葉でも、インドのあるカーストの人にとっては、つらい一言なんやと分った。多分、彼らは一生国の外を見ることが無いのかもしれない。それを自分達も分っている。

カーストのことはあまり分らないし、外国人の自分には関係ない世界やと思った。しかし、こんな何気ない土産屋やそこらへんでの会話の中にも、カーストは存在しているのだ。